Judd. No.12
グッドネイバーズカレッジ『Judd.』編集ワークショップに参加し、
いちき串木野市にある造船所を取材し記事を執筆。
Judd. No.12
かごしまのわたしたちの周辺
編集ワークショップ形式でみんなでつくったフリーペーパー
『ジャッド12号』を11月18日発行します。
今回のざっくりしたテーマは「dig」。
8人の編集部員でいろんな鹿児島を掘り起こしました!
2016/11/18
Photo:Eiko Shimozono
僕は今年の4月から地域おこし協力隊として山梨県から移住し鹿児島県いちき串木野市で活動している。なぜこの地だったかというと、ここの焼酎を飲んで焼酎が好きになり、鹿児島の風土に興味をもったという単純な理由。そんな僕が感じる山梨県と鹿児島県との一番の違いは「海がある」という事だと思う。海とは無縁の地で育った僕にとって海は心躍る場所であると同時に、大き過ぎるものへの恐怖心を覚える場所なのである。
ここ、いちき串木野市は昔から漁業で栄えた町で、現在でも漁港が5ヶ所あるいわゆる港町である。当たり前だけれども港へ行けば船が何隻、何十隻と停まっている。よく見る光景である。でも、このよく目にしている船を造っている「造船所」という存在はなかなか知られてはいないのではないだろうか? と思い、未知の存在へのワクワク感とほんの少しの恐怖心とともに串木野港にある<岡下造船鉄工>へ取材をお願いすることにした。この時の感覚はどことなく僕が海に抱く感情と似ていた。
ちょっと強面で無口だけれども優しく温かく迎え入れてくれたのは3代目社長の岡下靖孝さん。断られることも覚悟していたが快諾いただけた。取材と工場内の写真を撮らせてもらう許可をもらい、改めて伺うことに。
後日、少し早く着いたので社長が帰社するまでの間に工場の写真を撮らせてもらうことにしたのだが、タイミングよく船がドックに上げられていて、その大きさ、その迫力に先ずは度肝を抜かれた。見上げると首が痛くなるほど。そのまま船の周りをグルグルと回り、錆がいい感じの極太チェーンや巨大なボルトを発見しては興奮して声を上げ、何に使うどんな道具なのかはわからないけれど趣のある佇まいに立ち止まり、心の高鳴りが抑えきれない。
そして屋内作業場へ一歩入った瞬間そこはそれまでと違った異空間が広がっていて思わず呼吸が止まった。数秒後、鼻から息を吸い込むと機械とオイルの匂いが全身にまわり、改めてその異空間の格好良さに見惚れていた。時代は移り変わっても104年もの間、船を造り、直し、動かしてきた工場のたくましい姿があった。工場内で時間を忘れ「オォー!カッコイイ!」などと子供のように夢中になりひとしきり探検してから事務所へ行くと社長は既に机に戻っていた。
創業は大正元年、長島町出身の船大工だった初代(社長の祖父)が熊本県天草で始め、大正15年に現在の場所に落ち着いた。当時はまだ木造船しかない時代、山ひとつ分の木材を購入し切り出し、工場にある製材機で骨組みとなる竜骨から切り出し組み上げて作っていた。曲線部分は木材を何時間も熱湯で煮、柔らかくしてから曲げて張り合わせていた。海へ出た時の木の膨張具合も計算に入れて隙間を調整して作るという、計り知れないほどの匠の技術だったこともうかがえる。サバやマグロ漁が盛んになると船の需要も高まり、この大掛かりで繊細な技術を要する船を何隻も同時に作っていたという。昭和40年台に入って鉄船が主流になってきてからは修理修繕や塗装が主になっているが、今でも一点物のパーツなどは鉄を曲げたり溶接したりと必要な部品を一から作っているところは昔からの匠の精神が息づいている。
鹿児島県での造船についても調べてみたところ、島津家28代当主島津斉彬(なりあきら)が大きく関わっている事がわかった。斉彬は嘉永4年(1851)、磯地区に造船所を建設し、日本初の洋式帆船「伊呂波丸(いろはまる)」を完成させた。その後も日本初の蒸気船「雲行丸(うんこうまる)」を完成させ、さらには桜島へも造船所を建設し日本初の本格的洋式軍艦となる「昇平丸(しょうへいまる)」を完成させた。そして、薩摩藩をはじめ幕府や諸藩が洋式船の建造を始めるようになると自国船であるかどうかを識別するための標識が必要となり、この標識に日本で古くから使用されていた日の丸印を白地に赤丸で統一し日本の標識(総船印)として使用することを初めて提案したのが島津斉彬だった。その総船印がのちの日本国旗の日の丸になったという話である。
港町にある造船所を調べ始めたところから日の丸の発祥まで辿り着くとは思ってもいなかったが、今回の取材が終わってから海に対する恐怖心が少し無くなり、かわりにちょっとだけ優しさを感じるようになり、波の音を聴きに車を走らせる回数が増えた。
※ Judd. No.12 | 2016. Autumn より
造船所104歳の姿。
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